【高校国語】山月記・中島敦《定期テスト対策》過去問ダウンロード・教科書演習
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【高校国語】山月記・中島敦《定期テスト対策》過去問ダウンロード・教科書演習

『山月記』の登場人物、あらすじ主人公:李徴(りちょう)才能にあふれた青年だったが、「臆病な自尊心」と「尊大な羞恥心」によって挫折し、才能を磨くことも人々と交わることもしなくなってしまった。ついには、発狂して虎と化す。袁傪(えんさん)主人公の...

一体、獣でも人間でも、もとは何か他(ほか)のものだったんだろう。初めはそれを憶えているが、次第に忘れて了(しま)い、初めから今の形のものだったと思い込んでいるのではないか? いや、そんな事はどうでもいい。おれの中の人間の心がすっかり消えて了(しま)えば、恐らく、その方が、おれはしあわせになれるだろう。 だのに、おれの中の人間は、その事を、この上なく恐しく感じているのだ。ああ、全く、どんなに、恐しく、哀(かな)しく、切なく思っているだろう! 己(おれ)が人間だった記憶のなくなることを。この気持は誰にも分らない。誰にも分らない。己(おれ)と同じ身の上に成った者でなければ。ところで、そうだ。己(おれ)がすっかり人間でなくなって了(しま)う前に、一つ頼んで置きたいことがある。

★語句解説・問題 問題 おれの中の人間は、その事を、この上なく恐しく感じている、とはどういう気持ちか。 解答 自分の中に人間の心が残っているせいで罪の意識を覚えて苦しまなくてはならない反面、自分が人間であった証として人間の心を決して忘れたくないという気持ち。 *相反する感情や考え方を同時に心に抱いている(アンビバレント:ambivalent)気持ち。

第四段落:李徴の願い ★語句解説・問題 息をのんで…はっと驚く。息を止める。*この場面では、呼吸を抑えて静かにしている意味≒息を凝らす。 世に行われておらぬ…世の中に知られていない 遺稿(いこう)…死後に残る原稿

ところで、その中、今も尚(なお)記誦(きしょう)せるものが数十ある。これを我が為(ため)に伝録(でんろく)して戴(いただ)きたいのだ。何も、これに仍(よ)って一人前の詩人面(づら)をしたいのではない。作の巧拙(こうせつ)は知らず、とにかく、産(さん)を破り心を狂わせてまで自分が生涯(しょうがい)それに執着したところのものを、一部なりとも後代に伝えないでは、死んでも死に切れないのだ。

★語句解説・問題 伝録(でんろく)…書き記して伝える 作の巧拙(こうせつ)は知らず…作品が優れているかつまらないかは分からない 産(さん)を破り…破産し、財産を失い、

問題 産(さん)を破り心を狂わせてまで自分が生涯(しょうがい)それに執着したところのものを、一部なりとも後代に伝えないでは、死んでも死に切れないのだ。、とあるがどういう気持ちか。 解答 財産を失い発狂してまで執着した詩を、虎になった今もなお捨てることができない、李徴の詩を深く愛する気持ち。

★語句解説 朗々(ろうろう)…声が大きく、澄んではっきりしているようす。 格調高雅… 品があって美しいさま。 意趣卓逸…考え方がすぐれていること。 非凡…一般の人よりずっとすぐれていること。

旧詩を吐き終った李徴の声は、突然調子を変え、自らを嘲(あざけ)るか如(ごと)くに言った。 羞(はずか)しいことだが、今でも、こんなあさましい身と成り果てた今でも、己(おれ)は、己(おれ)の詩集が長安(ちょうあん)風流人士(ふうりゅうじんし)の机の上に置かれている様を、夢に見ることがあるのだ。岩窟(がんくつ)の中に横たわって見る夢にだよ。嗤(わら)ってくれ。詩人に成りそこなって虎になった哀れな男を。 (袁傪(えんさん)は昔の青年李徴の自嘲癖(じちょうへき)を思い出しながら、哀しく聞いていた。)

★語句解説 風流人士(ふうりゅうじんし)…風流を愛し、教養や地位のある人々。 自嘲癖(じちょうへき)…自分で自分のことを馬鹿にして笑うくせのこと。

そうだ。お笑い草(ぐさ)ついでに、今の懐(おもい)を即席の詩に述べて見ようか。この虎の中に、まだ、曾(かつ)ての李徴が生きているしるしに。 袁傪(えんさん)は又 下吏(かり)に命じてこれを書きとらせた。その詩に言う。

★語句解説 お笑い草(ぐさ)…お笑いのネタ。笑いを誘う材料。 下吏(かり)…下級の役人

偶因狂疾成殊類 (たまたま狂疾(きょうしつ)によつて殊類(しゅるい)となる) 災患相仍不可逃 (災患(さいかん)あひよつて逃るべからず) 今日爪牙誰敢敵 (今日は爪牙(そうが)たれかあへて敵せんや) 当時声跡共相高 (当時は声跡(せいせき)ともにあひ高かりき) 我為異物蓬茅下 (我は異物となりて蓬茅(ほうぼう)の下にあれども) 君已乗軺気勢豪 (君はすでに軺(よう)に乗りて気勢豪なり) 此夕渓山対明月 (この夕べ渓山(けいざん)明月(けいげつ)に対し) 不成長嘯但成嘷 (長嘯(ちょうしょう)を成さずしてただ嘷(こう)を成すのみ)

★語句解説 思いがけず狂気に取りつかれ異類(獣)となった 災いが重なりあって逃れることができない 今ではこの爪と牙に勝てる者は誰もいない かつてはよい評判が二人ともに相高かった 私は異形の身となって雑草のもとにいるが 君はすでに伝令の車に乗り勢い盛んである この夜に、谷や山にかかる明月へ向かって 詩を吟ずることはできずほえ叫ぶばかりだ

第五段落:李徴が虎に変わった理由 ★語句解説 時に、残月、光冷やかに…夜明けが近づいて残月の光が色を失っていくさま 暁(あかつき)…夜明け 奇異(きい)…あやしく不思議な事 粛然(しゅくぜん)…おごそかで静かなさま

★語句解説 倨傲(きょごう)…おごり高ぶること。自分の態度が、意図せずに周囲から偉そうで自分達を見下していると感じ取られるようなこと。傲慢。 尊大(そんだい)…いばって、他人を見下げるような態度をとること。高慢。横柄。 羞恥心(しゅうちしん)…自分の過ちや思い違いなどによって生じる苦しい感情のこと。はずかしい気持ちになり屈辱感を味わうこと。

勿論(もちろん)、曾(かつ)ての郷党(きょうとう)の鬼才といわれた自分に、自尊心(じそんしん)が無かったとは云(い)わない。しかし、それは臆病(おくびょう)な自尊心(じそんしん)とでもいうべきものであった。おれは詩によって名を成そうと思いながら、進んで師に就いたり、求めて詩友と交って切磋琢磨(せっさたくま)に努めたりすることをしなかった。かといって、又、おれは俗物の間に伍(ご)することも潔(いさぎよ)しとしなかった。共に、我が臆病な自尊心と、尊大な羞恥心との所為(せい)である。

★語句解説・問題 郷党(きょうとう)の鬼才…郷里の仲間の中で特にすぐれた才能の持ち主。 自尊心(じそんしん)…プライド。自分が優れているという気持ち。 俗物の間に伍(ご)する…つまらない人間同士と同列に並ぶ

問題 我が臆病な自尊心と、尊大な羞恥心、とあるがどういうものか。 解答 自分の詩の才能を信じつつもその才能が本物でないことを恐れて人と交わらないことと、自分の才能が本物のでないことを恐れながらも自分は俗物ではないと思うこと。

己(おのれ)の珠(たま)に非(あら)ざることを惧(おそ)れるが故(ゆえ)に、敢(あえ)て刻苦して磨(みが)こうともせず、又、己(おのれ)の珠(たま)なるべきを半ば信ずるが故に、碌々(ろくろく)として瓦(かわら)に伍することも出来なかった。おれは次第に世と離れ、人と遠ざかり、憤悶(ふんもん)と慙恚(ざんい)とによって益々(ますます)己(おのれ)の内なる臆病な自尊心を飼いふとらせる結果になった。

★語句解説・問題 珠(たま)…優れた才能 碌々(ろくろく)として…平凡で役に立たないさま。たいした事もできないさま。 瓦(かわら)…値打ちのないもの。 *この場面では、平凡な才能の持ち主を表す。 伍する…同等の位置に並ぶ。肩を並べる。仲間入りする。 憤悶(ふんもん)…怒りや不満などで憤り悶(もだ)えること。 慙恚(ざんい)…恥ずかしく思い、怒ること。

問題 珠(たま)とあるが、これと対比された語を書き抜きなさい。 解答 瓦(かわら)

★語句解説 警句(けいく)…短文で、物事の真理や奇抜なすぐれた考えを含ませた言葉。 弄(ろう)する…からかう。 もてあそぶ。いじる。 卑怯(ひきょう)な危惧(きぐ)…勇気がなく恐れているだけなさま。 ★語句解説 胸を灼(や)かれるような…ひどく思いわずらう

どうすればいいのだ。おれの空費された過去は? おれは堪(たま)らなくなる。そういう時、おれは、向うの山の頂の巖(いわ)に上り、空谷(くうこく)に向って吼(ほ)える。 この胸を灼く悲しみを誰かに訴えたいのだ。おれは昨夕(さくゆう)も、彼処(あそこ)で月に向って咆(ほ)えた。誰かにこの苦しみが分って貰(もら)えないかと。 しかし、獣どもはおれの声を聞いて、唯(ただ)、懼(おそ)れ、ひれ伏すばかり。山も樹(き)も月も露も、一匹の虎が怒り狂って、哮(たけ)っているとしか考えない。天に躍り地に伏して嘆いても、誰一人おれの気持を分ってくれる者はない。ちょうど、人間だった頃、おれの傷つき易(やす)い内心を誰も理解してくれなかったように。おれの毛皮の濡(ぬ)れたのは、夜露(よつゆ)のためばかりではない。

★語句解説・問題 哮(たけ)る…大声でさけぶ。 ほえさけぶ。 激しくほえる。

問題 おれの毛皮の濡(ぬ)れたのは、夜露(よつゆ)のためばかりではない。、とあるがこれはどういうことか。 解答 虎の姿になってからも、誰にも理解されない悲しみの涙を流していたということ。