トルストイ著『愛あるところに神あり』 『靴屋のマルチン』の別名で知られる名作
トルストイ著『愛あるところに神あり』 『靴屋のマルチン』の別名で知られる名作

トルストイ著『愛あるところに神あり』 『靴屋のマルチン』の別名で知られる名作

トルストイ著『愛あるところに神あり』 『靴屋のマルチン』の別名で知られる名作 彼には仕事がたくさんあった。なぜなら、アフデェーイチは仕事が手堅く、上等な材料を使ったうえに、手間賃が安く、約束が確かだったからである。(89ページ)

彼には仕事がたくさんあった。なぜなら、アフデェーイチは仕事が手堅く、上等な材料を使ったうえに、手間賃が安く、約束が確かだったからである。(89ページ)

彼の生活は、静かな、喜びにみちたものとなった。朝から仕事にすわって、きまった時間だけ働くと、ランプを鉤(かぎ)からはずしてテーブルの上におき、棚から聖書をとりおろして、それをひらき、腰を掛けて読みはじめる。こうして読んでゆくにしたがって、だんだんとよくわかってきて、心も明るく、かるがるとなってゆくのだった。(93ページ)

「マルツィン!」 とつぜんだれかが、耳もとでこう呼びかけたような気がした。マルツィンは夢心地で、びくりとした――「だれだな?」 彼は振り返って戸口のほうを見た――だれもいない。(略)とつぜんはっきりと声が聞こえた――「マルツィン、おい、マルツィン! 明日往来を見ておれよ、わしが行くから」(96ページ)

マルツィンは残りの茶をついで、それを飲んでしまうと、コップや皿を片づけ、ふたたび窓ぎわの仕事台の前に腰かけて、靴の後部を縫いにかかった。が、縫いながらものべつ窓を見上げて、キリストのくるのを心待ちにし、たえず彼のこと、彼の事業のことばかりを考えていた。彼の頭には、あとからあとからと、さまざまなキリストの言葉が浮かぶのだった。(101、102ページ)

そこでアフデェーイチはばあさんに、一つのたとえ話――ある主人が小作人に莫大な負債をゆるしてやったのに、小作人は出かけて行って、自分が金を貸している男ののどをしめようとした、という話をして聞かせた。ばあさんはじっと聞いていたし、子供も聞いていた。「神さまはゆるせといいつけなすったんだ」とアフデェーイチは言った。「でなくちゃわしらもゆるしていただくわけにゃいかねえ。(略)ことに考えの足りねえ子供なんかはなおさらさ」(109、110ページ)

アフデェーイチの心は喜びでいっぱいになった。彼は十字を切り、めがねをかけて、福音書を読みはじめた――(略)それから、ページの終わりのほうに、またつぎの言葉を読んだ――「汝(なんじ)ら、わが兄弟なるこれらのいと小さき者のひとりになしたるは、すなわちわれになしたるなり」(マタイ伝第二十五章)そこでアフデェーイチは、夢が自分を欺かなかったこと、まさしくこの日、彼のところへ、救世主がこられたのだということ、自分が彼を正しく迎えたということを、悟った。(113ページ)

栗栖ひろみ(くりす・ひろみ)

1942年東京生まれ。早稲田大学夜間部卒業。80〜82年『少年少女信仰偉人伝・全8巻』(日本教会新報社)、82〜83年『信仰に生きた人たち・全8巻』(ニューライフ出版社)刊行。以後、伝記や評伝の執筆を続け、90年『医者ルカの物語』(ロバ通信社)刊行。また、猫のファンタジーを書き始め、2012年『猫おばさんのコーヒーショップ』で日本動物児童文学奨励賞を受賞。15年より、クリスチャントゥデイに中・高生向けの信仰偉人伝のWeb連載を始める。20年『ジーザス ラブズ ミー 日本を愛したJ・ヘボンの生涯』(一粒社)刊行。現在もキリスト教書、伝記、ファンタジーの分野で執筆を続けている。

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