山村暮鳥 「西瓜の詩」(詩集『雲』より)
山村暮鳥 「西瓜の詩」(詩集『雲』より)

山村暮鳥 「西瓜の詩」(詩集『雲』より)

西瓜の詩農家のまひるはひつそりと西瓜のるすばんだ大でつかい奴がごろんと一つ座敷のまんなかにころがつてゐるおい、泥棒がへえるぞわたしが西瓜だつたらどうして噴出さずにゐられたらうおなじく座敷のまんなかに西瓜が一つ畑のつもりでころがつてるびんばふ

夏の朝 なにといふ虫かしらねど 時計の玻璃のつめたきに這ひのぼり つうつうと啼く ものいへぬむしけらものの悲しさに 砂山の雨 砂山に雨の消えゆく音 草もしんしん 海もしんしん こまやかなる夏のおもひも わが身みなうち.

島崎藤村 「椰子の實」 (詩集『落梅集』より)

椰子の實 名も知らぬ遠き島より 流れ寄る椰子の實一つ 故郷ふるさとの岸を離れて 汝なれはそも波に幾月 舊もとの樹は生ひや茂れる 枝はなほ影をやなせる われもまた渚を枕 孤身ひとりみの浮寢の旅ぞ 實をとりて胸.

金子みすゞ 「なぞ」「蝉のおべべ」「蓮と鶏」「このみち」(『金子みすゞ全集』より)

なぞ なぞなぞなァに、 たくさんあって、とれないものなァに。 青い海の青い水、 それはすくえば青かない。 なぞなぞなァに、 なんにもなくって、とれるものなァに。 夏の昼の小さい風、 それは、団扇うちわです.

高村光太郎 「人に」(詩集『智恵子抄』より)

人に 遊びぢやない 暇つぶしぢやない あなたが私に会ひに来る ――画もかかず、本も読まず、仕事もせず―― そして二日でも、三日でも 笑ひ、戯れ、飛びはね、又抱き さんざ時間をちぢめ 数日を一瞬に果す ああ、けれども .

北原白秋「落葉松」(詩集『水墨集』より)

落葉松 一 からまつの林を過ぎて、 からまつをしみじみと見き。 からまつはさびしかりけり。 たびゆくはさびしかりけり。 二 からまつの林を出でて、 からまつの林に入りぬ。 からまつの林に入りて、 また細く道はつづ.