北原白秋 「海の向う」(童謡)
海の向うさんごじゆの花が咲いたら、咲いたらといつか思つた、さんごじゆの花が咲いたよ。あの島へ漕いで行けたら、行けたらといつか思つた、その島にけふは来てるよ。あの白帆どこへゆくだろ、あの小鳥どこへゆくだろ、あの空はどこになるだろ。行きたいな、
夏の朝 なにといふ虫かしらねど 時計の玻璃のつめたきに這ひのぼり つうつうと啼く ものいへぬむしけらものの悲しさに 砂山の雨 砂山に雨の消えゆく音 草もしんしん 海もしんしん こまやかなる夏のおもひも わが身みなうち.
高村光太郎 「人に」(詩集『智恵子抄』より)人に 遊びぢやない 暇つぶしぢやない あなたが私に会ひに来る ――画もかかず、本も読まず、仕事もせず―― そして二日でも、三日でも 笑ひ、戯れ、飛びはね、又抱き さんざ時間をちぢめ 数日を一瞬に果す ああ、けれども .
立原道造 「夏花の歌」(詩集『萱草に寄す』より)夏花の歌 その一 空と牧場のあひだから ひとつの雲が湧きおこり 小川の水面に かげをおとす 水の底には ひとつの魚が 身をくねらせて 日に光る それはあの日の夏のこと! いつの日にか もう返らない夢のひととき 黙.
金子みすゞ 「なぞ」「蝉のおべべ」「蓮と鶏」「このみち」(『金子みすゞ全集』より)なぞ なぞなぞなァに、 たくさんあって、とれないものなァに。 青い海の青い水、 それはすくえば青かない。 なぞなぞなァに、 なんにもなくって、とれるものなァに。 夏の昼の小さい風、 それは、団扇うちわです.
島崎藤村 「椰子の實」 (詩集『落梅集』より)椰子の實 名も知らぬ遠き島より 流れ寄る椰子の實一つ 故郷ふるさとの岸を離れて 汝なれはそも波に幾月 舊もとの樹は生ひや茂れる 枝はなほ影をやなせる われもまた渚を枕 孤身ひとりみの浮寢の旅ぞ 實をとりて胸.