太宰治『走れメロス』あらすじと全文!作者の伝えたいこと・意味調べも解説
太宰治『走れメロス』(中2国語)のあらすじと主題(作者の伝えたいこと)を図解と全文でわかりやすく解説!メロスの心情変化や「真の信頼」の意味、登場人物(セリヌンティウス・暴君ディオニス)、難しい語句の意味も網羅しています。
最後のシーンで、メロスとセリヌンティウスは、お互いに一度疑ってしまったことを正直に告白して、殴り合うよね。「本当の信頼」というのは、一度も疑わないことじゃなくて、疑ってしまった弱い自分を隠さずに相手にさらけ出せることなのかもしれないね。みんなもこれから、友達を信じられなくなったり、約束を守るのが辛くなったりすることがあると思う。そんな時は、あの泥だらけで、一度あきらめかけたメロスの姿を思い出してほしい。「カッコ悪くてもいい。最後に走り出せれば、それでいいんだ」ってね。
「走れメロス」全文
メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐(じゃちぼうぎゃく)の王を除かなければならぬと決意した。メロスは政治がわからぬ。メロスは、村の牧人である。笛を吹き、羊と遊んで暮らしてきた。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。今日未明、メロスは村を出発し、野を越え山越え、十里離れたこのシラクスの町にやって来た。メロスには父も、母もない。女房もいない。十六の、内気な妹と二人暮らしだ。この妹は、村のある律儀な一牧人を、近々花婿として迎えることになっていた。結婚式も間近なのである。メロスは、それゆえ、花嫁の衣装やら祝宴のごちそうやらを買いに、はるばる町にやって来たのだ。まず、その品々を買い集め、それから都の大路(おおじ)をぶらぶら歩いた。メロスには竹馬(ちくば)の友があった。セリヌンティウスである。今はこのシラクスの町で、石工をしている。その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。久しく会わなかったのだから、訪ねていくのが楽しみである。歩いているうちにメロスは、町の様子を怪しく思った。ひっそりしている。もう既に日も落ちて、町の暗いのはあたりまえだが、けれども、なんだか、夜のせいばかりではなく、町全体が、やけに寂しい。のんきなメロスも、だんだん不安になってきた。道で会った若い衆を捕まえて、何かあったのか、二年前にこの町に来たときは、夜でも皆が歌を歌って、町はにぎやかであったはずだが、と質問した。若い衆は、首を振って答えなかった。しばらく歩いて老爺(ろうや)に会い、今度はもっと語勢を強くして質問した。老爺は答えなかった。メロスは両手で老爺の体を揺すぶって質問を重ねた。老爺は、辺りをはばかる低声で、僅(わず)か答えた。「王様は、人を殺します。」「なぜ殺すのだ。」「悪心(あくしん)を抱いているというのですが、誰もそんな、悪心をもってはおりませぬ。」「たくさんの人を殺したのか。」「はい、初めは王様の妹婿様を。それから、ご自身のお世継ぎを。それから、妹様を。それから、妹様のお子様を。それから、皇后様を。それから、賢臣のアレキス様を。」「驚いた。国王は乱心か。」「いいえ、乱心ではございませぬ。人を信ずることができぬというのです。このごろは、臣下の心をもお疑いになり、少しく派手な暮らしをしている者には、人質一人ずつ差し出すことを命じております。ご命令を拒めば、十字架にかけられて殺されます。今日は、六人殺されました。」聞いて、メロスは激怒した。「あきれた王だ。生かしておけぬ。」
メロスは単純な男であった。買い物を背負ったままで、のそのそ王城に入っていった。たちまち彼は、巡邏(じゅんら)の警吏(けいり)に捕縛された。調べられて、メロスの懐中(かいちゅう)からは短剣が出てきたので、騒ぎが大きくなってしまった。メロスは王の前に引き出された。「この短刀で何をするつもりであったか。言え!」暴君ディオニスは静かに、けれども威厳をもって問い詰めた。その王の顔は蒼白(そうはく)で、眉間のしわは刻み込まれたように深かった。「町を暴君の手から救うのだ。」とメロスは、悪びれずに答えた。「おまえがか?」王は、憫笑(びんしょう)した。「しかたのないやつじゃ。おまえなどには、わしの孤独の心がわからぬ。」「言うな!」とメロスは、いきり立って反駁(はんばく)した。「人の心を疑うのは、最も恥ずべき悪徳だ。王は、民の忠誠をさえ疑っておられる。」「疑うのが正当の心構えなのだと、わしに教えてくれたのは、おまえたちだ。人の心は、あてにならない。人間は、もともと私欲の塊さ。信じては、ならぬ。」暴君は落ち着いてつぶやき、ほっとため息をついた。「わしだって、平和を望んでいるのだが。」「何のための平和だ。自分の地位を守るためか。」今度はメロスが嘲笑(ちょうしょう)した。「罪のない人を殺して、何が平和だ。」「黙れ。」王は、さっと顔を上げて報いた。「口では、どんな清らかなことでも言える。わしには、人のはらわたの奥底が見え透いてならぬ。おまえだって、今にはりつけになってから、泣いてわびたって聞かぬぞ。」「ああ、王は利口だ。うぬぼれているがよい。私は、ちゃんと死ねる覚悟でいるのに。命乞いなど決してしない。ただ、ー」と言いかけて、メロスは足元に視線を落とし、瞬時ためらい、「ただ、私に情けをかけたいつもりなら、処刑までに三日間の日限を与えてください。たった一人の妹に、亭主を持たせてやりたいのです。三日のうちに、私は村で結婚式を挙げさせ、必ず、ここへ帰ってきます。」
「ばかな。」と暴君は、しゃがれた声で低く笑った。「とんでもないうそを言うわい。逃した小鳥が帰ってくると言うのか。」「そうです。帰ってくるのです。」メロスは必死で言い張った。「私は約束を守ります。私を三日間だけ許してください。妹が私の帰りを待っているのだ。そんなに私を信じられないならば、よろしい、この町にセリヌンティウスという石工がいます。私の無二(むに)の友人だ。あれを人質としてここに置いていこう。私が逃げてしまって、三日目の日暮れまで、ここに帰ってこなかったら、あの友人を絞め殺してください。頼む。そうしてください。」それを聞いて王は、残虐な気持ちで、そっとほくそ笑んだ。生意気なことを言うわい。どうせ帰ってこないに決まっている。このうそつきにだまされたふりして、放してやるのもおもしろい。そうして身代わりの男を、三日目に殺してやるのも気味がいい。人は、これだから信じられぬと、わしは悲しい顔して、その身代わりの男を磔刑(たっけい)に処してやるのだ。世の中の、正直者とかいうやつばらにうんと見せつけてやりたいものさ。「願いを聞いた。その身代わりを呼ぶがよい。三日目には日没までに帰って来い。遅れたら、その身代わりを、きっと殺すぞ。ちょっと遅れて来るがいい。おまえの罪は、永遠に許してやろうぞ。」「なに、何をおっしゃる。」「はは。命が大事だったら、遅れて来い。おまえの心は、わかっているぞ。」メロスは悔しく、じだんだ踏んだ。ものも言いたくなくなった。竹馬の友、セリヌンティウスは、深夜、王城に召された。暴君ディオニスの面前で、よき友とよき友は、二年ぶりで相会うた。メロスは、友に一切の事情を語った。セリヌンティウスは無言でうなずき、メロスをひしと抱きしめた。友と友の間は、それでよかった。セリヌンティウスは縄打たれた。メロスはすぐに出発した。初夏、満天の星である。
メロスはその夜、一睡もせず十里の道を急ぎに急いで、村へ到着したのは明くる日の午前、日は既に高く昇って、村人たちは野に出て仕事を始めていた。メロスの十六の妹も、今日は兄の代わりに羊群(ようぐん)の番をしていた。よろめいて歩いてくる兄の、疲労困憊(ひろうこんぱい)の姿を見つけて驚いた。そうして、うるさく兄に質問を浴びせた。「なんでもない。」メロスは無理に笑おうと努めた。「町に用事を残してきた。またすぐ町に行かなければならぬ。明日、おまえの結婚式を挙げる。早いほうがよかろう。」妹は頬を赤らめた。「うれしいか。きれいな衣装も買ってきた。さあ、これから行って、村の人たちに知らせてこい。結婚式は明日だと。」メロスは、また、よろよろと歩きだし、家へ帰って神々の祭壇を飾り、祝宴の席を調え、間もなく床に倒れ伏し、呼吸もせぬくらいの深い眠りに落ちてしまった。目が覚めたのは夜だった。メロスは起きてすぐ、花婿の家を訪れた。そうして、少し事情があるから、結婚式を明日にしてくれ、と頼んだ。婿の牧人は驚き、それはいけない、こちらにはまだなんの支度もできていない、ぶどうの季節まで待ってくれ、と答えた。メロスは、待つことはできぬ、どうか明日にしてくれたまえ、とさらに押して頼んだ。婿の牧人も頑強(がんきょう)であった。なかなか承諾してくれない。夜明けまで議論を続けて、やっと、どうにか婿をなだめ、すかして、説き伏せた。結婚式は、真昼に行われた。新郎新婦の、神々への宣誓が済んだ頃、黒雲が空を覆い、ぽつりぽつり雨が降り出し、やがて車軸(しゃじく)を流すような大雨となった。祝宴に列席していた村人たちは、何か不吉なものを感じたが、それでも、めいめい気持を引きたて、狭い家の中で、むんむん蒸し暑いのも 怺 (こら)え、陽気に歌をうたい、手を打った。メロスも満面に喜色(きしょく)をたたえ、しばらくは、王とのあの約束さえ忘れていた。祝宴は、夜に入っていよいよ乱れ華やかになり、人々は、外の豪雨を全く気にしなくなった。メロスは、一生このままここにいたい、と思った。このよい人たちと生涯暮らしていきたいと願ったが、今は、自分の体で、自分のものではない。ままならぬことである。メロスは、我が身にむち打ち、ついに出発を決意した。明日の日没までには、まだ十分の時がある。ちょっとひと眠りして、それからすぐに出発しよう、と考えた。その頃には、雨も小降りになっていよう。少しでも長くこの家に愚図愚図(ぐずぐず)とどまっていたかった。メロスほどの男にも、やはり未練の情というものはある。今宵(こよい)呆然、歓喜に酔っているらしい花嫁に近寄り、「おめでとう。私は疲れてしまったから、ちょっとご免こうむって眠りたい。目が覚めたら、すぐに町に出かける。大切な用事があるのだ。私がいなくても、もうおまえには優しい亭主があるのだから、決して寂しいことはない。おまえの兄のいちばん嫌いなものは、人を疑うことと、それから、うそをつくことだ。おまえも、それは知っているね。亭主との間に、どんな秘密でも作ってはならぬ。おまえに言いたいのは、それだけだ。おまえの兄は、たぶん偉い男なのだから、おまえもその誇りを持っていろ。」花嫁は、夢見心地でうなずいた。メロスは、それから花婿の肩をたたいて、「支度のないのはお互いさまさ。私の家にも、宝といっては妹と羊だけだ。他には何もない。全部あげよう。もう一つ、メロスの弟になったことを誇ってくれ。」花婿はもみ手して、照れていた。メロスは笑って村人たちにも会釈(えしゃく)して、宴席から立ち去り、羊小屋に潜り込んで、死んだように深く眠った。 眼が覚めたのは翌る日の薄明の頃である。メロスは跳ね起き、南無三(なむさん)、寝過したか、いや、まだまだ大丈夫、これからすぐに出発すれば、約束の刻限までには十分間に合う。きょうは是非とも、あの王に、人の信実の存するところを見せてやろう。そうして笑って磔(はりつけ)の台に上ってやる。メロスは、悠々と身仕度をはじめた。雨も、いくぶん小降りになっている様子である。身仕度は出来た。さて、メロスは、ぶるんと両腕を大きく振って、雨中、矢の如く走り出た。 私は、今宵、殺される。殺される為に走るのだ。身代りの友を救う為に走るのだ。王の奸佞邪智(かんねいじゃち)を打ち破る為に走るのだ。走らなければならぬ。そうして、私は殺される。若い時から名誉を守れ。さらば、ふるさと。若いメロスは、つらかった。幾度か、立ちどまりそうになった。えい、えいと大声挙げて自身を叱りながら走った。村を出て、野を横切り、森をくぐり抜け、隣村に着いた頃には、雨も止み、日は高く昇って、そろそろ暑くなって来た。メロスは 額 の汗をこぶしで払い、ここまで来れば大丈夫、もはや故郷への未練は無い。妹たちは、きっと佳(よ)い夫婦になるだろう。私には、いま、なんの気がかりも無い筈だ。まっすぐに王城に行き着けば、それでよいのだ。そんなに急ぐ必要も無い。ゆっくり歩こう、と持ちまえの 呑気 さを取り返し、好きな小歌をいい声で歌い出した。ぶらぶら歩いて二里行き三里行き、そろそろ全里程の半ばに到達した頃、降って 湧 いた災難、メロスの足は、はたと、とまった。見よ、前方の川を。きのうの豪雨で山の水源地は 氾濫 し、濁流 滔々 (とうとう)と下流に集り、猛勢一挙に橋を破壊し、どうどうと響きをあげる激流が、 木葉 微塵(こっぱみじん)に 橋桁 (はしげた)を跳ね飛ばしていた。彼は茫然と、立ちすくんだ。あちこちと眺めまわし、また、声を限りに呼びたててみたが、 繋 舟(けいしゅう)は残らず浪に 浚 (さら)われて影なく、渡守りの姿も見えない。流れはいよいよ、ふくれ上り、海のようになっている。メロスは川岸にうずくまり、男泣きに泣きながらゼウスに手を挙げて哀願した。「ああ、 鎮 めたまえ、荒れ狂う流れを! 時は刻々に過ぎて行きます。太陽も既に真昼時です。あれが沈んでしまわぬうちに、王城に行き着くことが出来なかったら、あの佳い友達が、私のために死ぬのです。」 濁流は、メロスの叫びをせせら笑う如く、ますます激しく躍り狂う。浪は浪を呑み、捲き、 煽 (あお)り立て、そうして時は、刻一刻と消えて行く。今はメロスも覚悟した。泳ぎ切るより他に無い。ああ、神々も照覧あれ! 濁流にも負けぬ愛と誠の偉大な力を、いまこそ発揮して見せる。メロスは、ざんぶと流れに飛び込み、百匹の大蛇のようにのた打ち荒れ狂う浪を相手に、必死の闘争を開始した。満身の力を腕にこめて、押し寄せ渦巻き引きずる流れを、なんのこれしきと 掻 (か)きわけ掻きわけ、めくらめっぽう獅子奮迅(ししふんじん)の人の子の姿には、神も哀れと思ったか、ついに 憐愍 (れんびん)を垂れてくれた。押し流されつつも、見事、対岸の樹木の幹に、すがりつく事が出来たのである。ありがたい。メロスは馬のように大きな胴震いを一つして、すぐにまた先きを急いだ。一刻といえども、むだには出来ない。陽は既に西に傾きかけている。ぜいぜい荒い呼吸をしながら峠をのぼり、のぼり切って、ほっとした時、突然、目の前に一隊の山賊が躍り出た。「待て。」「何をするのだ。私は陽の沈まぬうちに王城へ行かなければならぬ。放せ。」「どっこい放さぬ。持ちもの全部を置いて行け。」「私にはいのちの他には何も無い。その、たった一つの命も、これから王にくれてやるのだ。」「その、いのちが欲しいのだ。」「さては、王の命令で、ここで私を待ち伏せしていたのだな。」
ふと耳に、潺々、水の流れる音が聞えた。そっと頭をもたげ、息を呑んで耳をすました。すぐ足もとで、水が流れているらしい。よろよろ起き上って、見ると、岩の裂目から滾々と、何か小さく囁きながら清水が湧き出ているのである。その泉に吸い込まれるようにメロスは身をかがめた。水を両手で掬って、一くち飲んだ。ほうと長い溜息が出て、夢から覚めたような気がした。歩ける。行こう。肉体の疲労恢復(かいふく)と共に、わずかながら希望が生れた。義務遂行の希望である。わが身を殺して、名誉を守る希望である。斜陽は赤い光を、樹々の葉に投じ、葉も枝も燃えるばかりに輝いている。日没までには、まだ間がある。私を、待っている人があるのだ。少しも疑わず、静かに期待してくれている人があるのだ。私は、信じられている。私の命なぞは、問題ではない。死んでお詫び、などと気のいい事は言って居られぬ。私は、信頼に報いなければならぬ。いまはただその一事だ。走れ! メロス。 私は信頼されている。私は信頼されている。先刻の、あの悪魔の囁きは、あれは夢だ。悪い夢だ。忘れてしまえ。五臓が疲れているときは、ふいとあんな悪い夢を見るものだ。メロス、おまえの恥ではない。やはり、おまえは真の勇者だ。再び立って走れるようになったではないか。ありがたい! 私は、正義の士として死ぬ事が出来るぞ。ああ、陽が沈む。ずんずん沈む。待ってくれ、ゼウスよ。私は生れた時から正直な男であった。正直な男のままにして死なせて下さい。 路行く人を押しのけ、跳ねとばし、メロスは黒い風のように走った。野原で酒宴の、その宴席のまっただ中を駈け抜け、酒宴の人たちを仰天させ、犬を蹴とばし、小川を飛び越え、少しずつ沈んでゆく太陽の、十倍も早く走った。一団の旅人と颯(さ)っとすれちがった瞬間、不吉な会話を小耳にはさんだ。「いまごろは、あの男も、磔にかかっているよ。」ああ、その男、その男のために私は、いまこんなに走っているのだ。その男を死なせてはならない。急げ、メロス。おくれてはならぬ。愛と誠の力を、いまこそ知らせてやるがよい。風態なんかは、どうでもいい。メロスは、いまは、ほとんど全裸体であった。呼吸も出来ず、二度、三度、口から血が噴き出た。見える。はるか向うに小さく、シラクスの市の塔楼が見える。塔楼は、夕陽を受けてきらきら光っている。
「待て。その人を殺してはならぬ。メロスが帰って来た。約束のとおり、いま、帰って来た。」と大声で刑場の群衆にむかって叫んだつもりであったが、 喉 がつぶれて 嗄 (しわが)れた声が 幽 (かす)かに出たばかり、群衆は、ひとりとして彼の到着に気がつかない。すでに磔の柱が高々と立てられ、縄を打たれたセリヌンティウスは、徐々に釣り上げられてゆく。メロスはそれを目撃して最後の勇、先刻、濁流を泳いだように群衆を掻きわけ、掻きわけ、「私だ、刑吏(けいり)! 殺されるのは、私だ。メロスだ。彼を人質にした私は、ここにいる!」と、かすれた声で精一ぱいに叫びながら、ついに磔台に昇り、釣り上げられてゆく友の両足に、 齧 (かじ)りついた。群衆は、どよめいた。あっぱれ。ゆるせ、と口々にわめいた。セリヌンティウスの縄は、ほどかれたのである。「セリヌンティウス。」メロスは眼に涙を浮べて言った。「私を殴れ。ちから一ぱいに頬を殴れ。私は、途中で一度、悪い夢を見た。君が 若 (も)し私を殴ってくれなかったら、私は君と抱擁する資格さえ無いのだ。殴れ。」 セリヌンティウスは、すべてを察した様子で 首肯 (うなず)き、刑場一ぱいに鳴り響くほど音高くメロスの右頬を殴った。殴ってから優しく 微笑 (ほほえ)み、「メロス、私を殴れ。同じくらい音高く私の頬を殴れ。私はこの三日の間、たった一度だけ、ちらと君を疑った。生れて、はじめて君を疑った。君が私を殴ってくれなければ、私は君と抱擁できない。」 メロスは腕に 唸 (うな)りをつけてセリヌンティウスの頬を殴った。「ありがとう、友よ。」二人同時に言い、ひしと抱き合い、それから嬉し泣きにおいおい声を放って泣いた。 群衆の中からも、 歔欷 (きょき)の声が聞えた。暴君ディオニスは、群衆の背後から二人の様を、まじまじと見つめていたが、やがて静かに二人に近づき、顔をあからめて、こう言った。「おまえらの望みは 叶 (かな)ったぞ。おまえらは、わしの心に勝ったのだ。信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。どうか、わしをも仲間に入れてくれまいか。どうか、わしの願いを聞き入れて、おまえらの仲間の一人にしてほしい。」 どっと群衆の間に、歓声が起った。「万歳、王様万歳。」 ひとりの少女が、 緋 (ひ)のマントをメロスに捧げた。メロスは、まごついた。佳き友は、気をきかせて教えてやった。「メロス、君は、まっぱだかじゃないか。早くそのマントを着るがいい。この可愛い娘さんは、メロスの裸体を、皆に見られるのが、たまらなく口惜しいのだ。」 勇者は、ひどく赤面した。
「走れメロス」意味調べ
言葉意味邪智暴虐悪いことに知識がよく働いて、乱暴な行動で人々のことを苦しめること未明日の出前のこと。だいたい午前3時から日の出までのこと十里距離のこと。一里は約3.9km。よって、十里はだいたい40km内気気が弱く、人の前ではきはきしない性格のこと律儀義理がたいこと。誠実で正直なこと竹馬の友幼い頃から遊んだともだち。幼馴染のこと語勢ことばを話したり書いたりするときの勢いのことはばかるまわりに遠慮すること悪心を抱く悪いことをしようとする心。他人に害を与えようとする心世継ぎ子供や孫など、自分のあとを相続するひとのこと賢臣賢明で優れた家臣のこと乱心心が乱れて狂うこと。狂気のそのそ動作がにぶくて、ゆっくりと行動するようす巡邏パトロールのこと警吏いわゆる警察官のこと捕縛捕まって、縛りあげられること懐中着ている服のふところや、ポケットの中のこと暴君暴虐で、人民を苦しめる君主のこと蒼白青白いこと憫笑あわれみ、さげすんで笑うこといきり立つ怒って興奮すること反駁はんばく。他の意見に反対して、論じ返すこと悪徳人の道にそむく心、行い忠誠君主や国、団体に対する一途な真心のこと利欲の塊自分一人の利益だけを考えること嘲笑あざけり(見下して)笑うこと報いる人からされたことに対して、それに見合ったものを返すことはらわたの奥底腹の中に隠していること。つまり、人には見えないように、心の奥底で考えている(ここでは)悪いことはりつけ罪人を板や柱などに縛り付けて、処刑すること情けをかけるあわれみをかける、あわれんで助けること日限あらかじめ定めた日、期日のことしゃがれた声声ががさがさしていたり、かすれていること無二の友人他に二人といない、一番大切な友人のこと残虐ひどくむごいことほくそ笑むひかえめに、かすかに笑うこと。満足そうに微笑むこと気味がいい気持ちが良いこと磔刑はりつけにして処刑することやつばらやつらどもじだんだ踏む怒りや悔しさなどの激しい感情から、地面をはげしく踏む動作のこと召される呼ばれること相合う互いに会うこと。対面すること一切すべて。残らず疲労困憊疲れきってしまうこと頑強ねばり強くて、なかなか相手に屈しないこと承諾うけいれること。引き受けることなだめ、すかす機嫌をとったり、慰めたりして相手の気持ちを落ち着かせること説き伏せるよく話をして相手を自分の考えに従わせること車軸を流すような大雨激しく雨が降ること列席出席することめいめいそれぞれ気持ちを引き立てる元気づけて力が出るようにすること怺える苦しみや痛みを耐えて我慢すること喜色をたたえる喜んでいるようすのことままならぬ思うようにならないこと身にむち打つ無理をして励まして、ふるいたたせること未練の情手放したくない、諦められないと思う気もち呆然ぼんやりとすることご免こうむる相手の許しを得ること夢見心地夢を見ているようにぼんやりしたようす。うっとりしているようす揉み手するここでは、下手に出ること会釈かるく礼をすること薄明の頃日の出前の、空がうす明るい状態のころ。だいたい、日の出る30分前くらいのこと南無三本来は「南無三宝」。三宝の仏に呼びかけて、救いを求めることば。そのため、なにか失敗をしたときや、驚いたときに言う言葉になった。「しまった!」というイメージで使う刻限決められた時間のこと信実真面目でいつわりがないこと悠々とよゆうを持って、あわてたりしないこと奸佞邪智心がひねくれて、ずるがしこくすること氾濫大雨で川などの水があふれること濁流滔々「滔々」とは、水が流れるようすのこと。濁った水が流れているようす猛勢一挙勢いよく一気に動くこと木葉微塵「木端微塵」とも。もとの形がないくらい、細かくくだけること。こなごなにくだけること橋桁橋のおもな部分。橋の道路になっている部分のこと茫然気が抜けて、ぼんやりしているようす繋舟船をつなぎとめること。ここではおそらく、川辺に繋がれていたはずの舟が波にさらわれて無くなっていたということかと思われるゼウス古代ギリシャ人にとっての最高神。天空神なので、雨などの天気をつかさどるため、メロスはゼウスにお願いをしたと考えられる哀願人の同情する心にうったえてお願いすることせせら笑うばかにして冷ややかに笑うこと煽り立てる風などの勢いで、ものを激しく動かすこと照覧明らかに見ること。神や仏がご覧になること満身の力自分が持ち出せる全ての力のことめくらめっぽう少しも見当がつかないこと。やみくもに獅子奮迅獅子(ライオン)が荒れ狂ったように、すばらしい勢いで奮闘するようすのこと憐愍を垂れる哀れに思って、同情すること飛鳥のごとく「ひちょうのごとく」と読む。空を飛んでいる鳥のように動作が速いようす膝を折るひざこぞうを床や地面につけること韋駄天足の速い神様のこと。足の速い人をたとえる言葉希代世にもまれなこと思うつぼ考えたとおり、たくらんだとおり心の隅に巣くう好ましくない感情が、その人の心の表面ではないところに起こって、とどまっているようす不信の徒信義を守らない人のこと精も根もつきる勢力も根気も使い果たして、やる気がおきなくなったこと欺くだますこと無心何も考えないこと耳打ちする相手の耳元でささやくこと。こっそりと話すこと独り合点自分だけの考えで分かったつもりになること放免罪人や被疑者を、自由にしてあげること定法決まっているおきてやんぬるかなもうおしまいだ、どうしようもない四肢両手と両足のことまどろむうとうとと、軽く眠ること潺々(せんせん)水がさらさらと流れる音のようす滾々と(こんこんと)水が尽きることなくわき出るようす息を呑むおどろいたり、緊張したりして息をとめること。ここでは、水の音を聞いてハッとした様子掬う手のひらやさじなどで、液体や粉末などをくみとること義務遂行なすべき務めを、成し遂げること斜陽西に傾いた太陽。夕日一事一つのこと。ただそれだけのこと五臓全身のこと。からだ中颯っと動作がすばやいようす。風が吹くようす風態身なり。外見のようす言うにや及ぶ言うまでもない疾風のごとく非常に速く吹く風のようなスピードで嗄れた声「しわがれたこえ」と読む。かすれた声幽かに「かすかに」と読む。かろうじて感じ取ることができる程度のこと刑吏刑を執行する役人のこと唸りをつけて「唸る」とは、能力や力を発揮したくてじっとしていられないようす。ここでは、メロスが持っている力をすべて使ってセリヌンティウスの頬を殴ったと考えられる歔欷すすりなき・むせび泣き空虚何もないこと・からっぽ緋火のような濃くて明るい紅色まごつくどうすればよいか分からなくて、まごまごすること口惜しい残念がること、くやしいこと運営者情報
タツベイ より: 授業ので使うやつを作って欲しいです。 中2 より: ひゅうがじみく より: ここ、 より: yumineko より: みなさんご意見ありがとうございます。 授業で使うやつというのは、具体的にどのようなものでしょうか? 走れメロス以外にも、中学校の国語で扱われる単元ということでしょうか?? リーン より: ポイント掴んでてわかりやすかったです! あと、作者の伝えたいことや、言葉の意味もまとめてくれたので、助かりました!ありがとうございます! 中2 より: 授業で役に立ちましたありがとうございます。 目指せ学年一位 より: いつもお世話になっています。素晴らしい問題の提供に感謝いたします。 おこがましいのですが、光村図書対応の問題も作っていただけないでしょうか? yumineko より:こちらこそ、いつも「ゆみねこの教科書」を使っていただいてありがとうございます! すみません、「光村図書対応の問題」とは、具体的にどのようなものでしょうか? 具体的に「この作品」というものなど、もしありましたらぜひお知らせください。
国語 LOVE より: とてもわかりやすかったです! 中2理科の電気についても詳しく載せて欲しいです! お願いします。 ゆう より: 国語の授業で参考にさせていただきました。 ありがとうございます! テスト対策の問題を充実させてくれるとありがたいです。 ゆみねこファン より: 予想問題ページに骨のある問題ありましたー!おすすめです!- 中学校全体のページへ
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