荏原 畠山美術館 開館記念展 Ⅰ 與衆愛玩―共に楽しむ
東京・港区白金の閑静な地に建つ畠山記念館が、開館60年を迎えた2024年10月、その名称を「荏原 畠山美術館」と変更し、新たな出発を遂げた。畠山記念館は、荏原製作所の創業者で実業家として、また茶の湯と能楽の道を究めた数寄者としても名を馳せた畠山一清(はたけやまいっせい)(1881~1971年)が蒐集した美術品を所蔵・公開し、名品揃いの作品は、広大な日本庭園、茶室と共に長年親しまれてきた。
東京・港区白金の閑静な地に建つ畠山記念館が、開館60年を迎えた2024年10月、その名称を「荏原 畠山美術館」と変更し、新たな出発を遂げた。畠山記念館は、荏原製作所の創業者で実業家として、また茶の湯と能楽の道を究めた数寄者としても名を馳せた畠山一清(はたけやまいっせい)(1881~1971年)が蒐集した美術品を所蔵・公開し、名品揃いの作品は、広大な日本庭園、茶室と共に長年親しまれてきた。このたび新館を新築し、本館(旧館)を新装。展示スペースは約3倍となった。 2025年6月にかけて、序破急3回の「荏原 畠山美術館 開館記念展」を開催(※会期は記事末へ)。現在は第Ⅰ弾「序」として「與衆愛玩(よしゅうあいがん)ー共に楽しむ」が開かれており、前期と後期で127作品が出品。
畠山一清(即翁)のこと
荏原 畠山美術館の入り口の階段を昇り、「丸に二引両紋」の扉の先に足を踏み入れると、緑豊かな日本庭園が広がり、鳥のさえずりが聴こえる。都会の中の別天地だ。本館と新館が建ち、五つの茶室が点在する。ここはもと畠山一清の私邸の一部だった。 畠山一清は1881年(明治14)に加賀金沢に生まれ、東京帝国大学工学部を卒業後、ポンプ開発に取り組み、1912年(大正元)に株式会社荏原製作所を創業した。また、「即翁」と称して茶の湯や能楽をたしなみ、鋭い鑑識眼で茶道具をはじめ、書画、陶磁、漆芸、能装束などの古美術品の蒐集を行った。1937年(昭和12)にこの地に居を構え、好みの茶室も建築。1964年(昭和39)10月、一隅に自ら設計した畠山記念館を開館した。
荏原 畠山美術館の本館入り口新たな出発の方針。新たな挑戦へ。
報道向けに行われた説明会で、荏原 畠山美術館の新館長に就任した岡部昌幸氏は、「ここは『隠れ家のような存在』として親しんできました。今後は古美術の蒐集品の展示と共に、新館で新たな領域への挑戦を行っていきます」と語った。水田至摩子 学芸課長は、「畠山即翁の想いを実現する本館の展示にさらに磨きをかけ、新館では新たな出会いをつくっていきます。庭園内の茶室は港区指定文化財となりました」と話した。
「開館記念展 Ⅰ 與衆愛玩ー共に楽しむ」の展示構成
本展は以下の4つの章で構成されている。 Ⅰ 祝祭の宴 /Ⅱ 能楽―美意識の支柱 / Ⅲ 美の架け橋―知られざる酒井億尋コレクション / Ⅳ 與衆愛玩の想い
Ⅰ 祝祭の宴 :茶道具や書画など
荏原 畠山美術館の会場風景(以下同様)。本館2階 展示室(前期展示の様子)桃山茶陶の名宝として知られる重要文化財《伊賀花入 銘からたち》(桃山時代 16~17世紀、荏原 畠山美術館蔵)(※以下、同館所蔵は略)は豪快だ。激しさと強さ、生命力にあふれる。どの方向からも見ても異なる器形で釉色も変化し、独特な焦げや表面も味わい深い。 重要文化財《割高台茶碗》(朝鮮時代 16世紀)は、古田織部の旧蔵とされる。高貴でかつ豪胆。1940年(昭和15)、鴻池家の売立で野村得庵と競り、畠山即翁が落札した。
右手前は、重要文化財《伊賀花入 銘からたち》桃山時代 16~17世紀 荏原 畠山美術館蔵。左奥に見える作品は、重要文化財《割高台茶碗》朝鮮時代 16世紀 荏原 畠山美術館蔵 ※共に通期展示書画では、国宝《煙寺晩鐘図》(伝 牧谿(もっけい)筆、南宋時代 13世紀)(※前期展示)や、国宝《大慧宗杲墨蹟 尺牘》(だいえそうこうぼくせき せきとく)(南宋時代 12世紀)(※後期展示)も出品。前者は、中国山水画の画題として有名な洞庭湖付近の風景の瀟湘八景の一つを描いた墨画。卓抜なる筆は淡い光をも表現。足利義満の所蔵以後、天下人らが所蔵。また後者は、中国・南宋時代の臨済宗の僧・大慧宗杲の書簡で、枯淡な味わいの書風とされる。徳川将軍家に伝来した逸品だ。 重要文化財《清滝権現像》(鎌倉時代 13世紀)(※後期展示)は、真言密教の護法神であり、水の神様で蛇神を本体とする清滝権現を、宝冠を戴き如意宝珠を手にする女神として描いた垂迹画。気高く麗しい姿だ。水を扱うポンプ製作の事業を行い、巳歳生まれという畠山即翁の本作への思いが想像できる。
右上は、伝牧谿筆 国宝《煙寺晩鐘図》南宋時代 13世紀 荏原 畠山美術館蔵 ※前期展示。左上は、《一休宗純墨蹟 二行》室町時代 15世紀 荏原 畠山美術館蔵 ※通期展示。下に並ぶのは、野々村仁清作《銹絵富士山香炉》の一部 江戸時代 17世紀 荏原 畠山美術館蔵 ※通期展示
★重要文化財《清滝権現像》鎌倉時代 13世紀 荏原 畠山美術館蔵 ※後期展示[画像提供:荏原 畠山美術館]Ⅱ 能楽―美意識の支柱 :能装束や能面
即翁は、能の宝生流教授資格を持つ父の影響もあり、事業を始めた頃から本格的に能をたしなみ、1955年に宝生流の免許皆伝を受けた。新館2階 展示室1では、鈴木慶雲作《能面 景清》(昭和時代 20世紀)、および即翁が所有し私邸 般若苑で使用した鏡板も展示されている。「景清」は即翁が56歳で初演して以来、6度舞った馴染み深い演目だった。
右は、鈴木慶雲作《能面 景清》昭和時代 20世紀 荏原 畠山美術館蔵。左は、即翁所蔵の鏡板 荏原 畠山美術館蔵 ※共に通期展示能装束の《段替に唐花根笹模様厚板唐織》(江戸時代 弘化4年〈1847〉)(※後期展示)は、大胆さと力強さが印象深い。全体を段片替りとし唐草文を配す。将軍・徳川家慶がまとったとされる。《金地南天に草紙模様縫箔》(江戸時代 18世紀)(※後期展示)は、金地に吉祥を意味する南天と草紙(本のこと)が舞い、あでやかだ。なお縫箔とは、摺箔という金や銀での文様表現に、刺繡を加えたものをいう。
★《段替に唐花根笹模様厚板唐織》江戸時代 弘化4年(1847) 荏原 畠山美術館蔵 ※後期展示 [画像提供:荏原 畠山美術館] ★《金地南天に草紙模様縫箔》江戸時代 18世紀 荏原 畠山美術館蔵 ※後期展示 [画像提供:荏原 畠山美術館]Ⅲ 美の架け橋―知られざる酒井億尋コレクション :企画展
左から、安井曾太郎《薔薇》1938年 個人蔵。安井曾太郎《熱海風景》20世紀 個人蔵。※共に通期展示Ⅳ 與衆愛玩の想い :資料など
美術館内を移動しながら名品群を巡っていくと、外部の緑がのぞく和風の本館、窓のない新館、スタイリッシュな通路など、興趣に富んだ空間体験も実に楽しい。 本展名の「與衆愛玩」とは、即翁の愛蔵印(展示室3で見られる)に刻まれた言葉で、「共に楽しむ」の意。装い新たとなった「荏原 畠山美術館」に足を運んでみてはいかがだろう。いつの季節もよいだろう。
【参考文献】 1)公益財団法人 畠山記念館 編集:『與衆愛玩 畠山即翁の美の世界』、公益財団法人 畠山記念館 発行、2011年
執筆・撮影(★を除く):細川いづみ(HOSOKAWA Fonte Idumi) (2024年11月)
荏原 畠山美術館 開館記念展 I 與衆愛玩-共に楽しむ Inaugural Exhibition:A Sprit of Generosity,“Cherished Pleasures, Offered to the People”[yoshu-aigan]
【会期・会場】 2024年10月5日(土)~12月8日(日) 荏原 畠山美術館(東京都・港区) 前期展示 10月5日(土)~11月4日(日) 後期展示 11月8日(金)~12月8日(日)
※今後の「荏原 畠山美術館 開館記念展」予定 ・開館記念展Ⅱ 琳派から近代洋画へ―数寄者と芸術パトロン 即翁・酒井億尋 2025年1月18日(土)~3月16日(日) ・開館記念展Ⅲ 松平不昧と江戸東京の茶(仮) 2025年4月12日(土)~6月15日(日)
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